自動車における「おもてなし」の開発とは、どのような技術ですか?

M.H : 乗員それぞれに合わせた安全かつ快適なサービスを提供しようというものです。

おもてなしと、自動運転技術の関係性について教えてください。

M.H : 現在、自家用車、バス、タクシー、トラックなどあらゆる交通手段の自動運転化が進められています。自動運転では運転手の方はいらっしゃらない。そこで重要になってくると我々が考えているのが、「おもてなし」の役割なんです。

あまりピンときませんが、具体的にはどのような機能ですか?

M.H : おもてなし機能のひとつに、自動スロープ展開機能があります。例えば、バスのような乗り合い車両を想定してお話ししますね。現在は、車椅子の方がいらっしゃると、運転手の方がスロープを出して乗車をサポートしています。しかし、自動運転では運転手の方はいらっしゃらないので、今までどおりのサポートが出来なくなり乗車が困難になる可能性があるのです。そこで、乗車口のカメラから車椅子の方を見分け、乗車する際に自動でスロープを展開するのです。

なるほど、確かに車椅子の方に対しては配慮が必要ですね。

M.H : はい。他にも小さいお子さんやお年寄りの方など、乗客に応じた車両制御やサービスの提供を行う必要がありますね。

運転が自動になるだけでは、運行できないと。

M.H : ええ。割と派手なシステムやサービスに目がいきがちですが、実はそうした日常生活に根ざした技術の支えがなければ、新しいモビリティ社会の実現はできないと思います。

言われてみればそうですね。

M.H : ほかには、お子さんの習い事などの送迎も、顔認証などで個人の搭乗記録をとるようになれば、安心して見守ることができ、帰りも降車場所で待つことなく迎えることができるようになるかもしれません。

なるほど。

M.H : 私たちはこのような機能を実現するために、AIを活用した画像解析により車室内外の人の状態推定を行うことで、自動運転車両でも人にやさしく、より快適な乗車を提供するシステムの開発を行っている、というわけなのです。お分かりいただけたでしょうか?

ありがとうございます。この技術開発の難しさとは?

M.H : 乗客を画像で認識するにしても、性別や年齢、体型、服装だけでも相当なバリエーションがあります。どのような状況でも乗客や環境を正確に判断しなければならないというところが難しさですかね。だから私たちはAIを活用して、判別するために重要な特徴を抜き出して認知させようとしているのです。

どのように車内をセンシングするのですか?

M.H : コスト面などさまざまな制約があって、現在は単眼カメラでの画像認識をベースに開発を進めています。よりはやい段階で社会実装したいと考えているからです。

現在はどこまで開発が進んでいるのですか?

M.H : 今年度中に実証実験を予定している機能がいくつかあります。まだ開発が始まったばかりですので、試験を重ねデータを集めながら技術を深めていく段階ですね。

そもそも、なぜこのプロジェクトは始まったのですか?

M.H : もともとアイシンでは、乗用車向けの周辺監視機能やドライバモニタ機能を開発していた経緯があります。その知見や技術で自動運転社会をより良くできないかという発想がプロジェクトの出発点となっています。

M.Hさんは、以前は電機関連メーカーにお勤めだったそうですが、なぜ転職を?

M.H : 価格勝負の製品開発になってくると、新しい機能を提案する機会が減ってくるわけです。私はいちエンジニアとして、人の暮らしを豊かにするような新しい技術の開発を続けたかった。だから大変革期を迎えている自動車業界に飛び込み、エンジニアとしてチャレンジする道を選んだわけです。

AIに関する知見は入社後に習得されたのですか?

M.H :はい。最新技術の動向をキャッチアップすることから始めました。ベンチャーや大学の先生にヒアリングしながら、今開発しているシステムが1年2年で陳腐化しないかといったことを気にしながら、今も勉強を続けています。

今後の課題は。

M.H : 先ほどお話しした問題の他にも、AIの説明可能性など解決すべき課題は山積しています。社内外の知見を総動員して、それらを一段ずつなんとか乗り越えていこうと試行錯誤の毎日です。

でも、どことなく楽しそうですね。

M.H : そうですね。確かに乗り越えるべき壁は高いですが、どんなモノやサービスがあれば世の中はもっと豊かになるか、それを実現するためにはどんな技術が必要なのか。そういったことを考えながら発信できるエンジニア職は、やっぱり面白いなと感じています。